はじまりはいつもあれ 2

自己評価の低い医師の日記です 不快な気持ちにさせたら申し訳ありません

最近の記事公開

とあるブログに紹介した私の文章をここに転記することにしました

取り急ぎご査収ください

 

自己攻撃性との付き合い方 ~うつ病による休職を経験して~

 

1.イントロダクション

医学生や医師が陥るうつ病について皆さんはどのように感じるだろうか。

 

うつ病によって休職した私の体験を語ることで少しでも同じように悩める人の助けになればと思っている。



2.これまでの経緯

私は過干渉な母によって、優秀な1つ下の弟と常に比較され自己肯定感の低い土台を持ち育った。 

なんとか一浪で田舎の地方医学部に入学したが、留年も経験した。

そして留年後も部活中心の生活と完璧主義で要領が悪い性格のためか、再試験を重ねた。

 

大学6年生の春、不本意な部活の引退、臨床実習での疲労、迫り来る国家試験のストレスとが引き金となり、抑うつ状態で心療内科への通院を開始した。

 

国家試験合格後、初期研修を始めてから症状が落ち着いていたため一旦は通院を中止したが、医師2年目の専攻科を決定する際にまた通院を再開した。

思うように仕事が出来ていない現実と、なりたい理想とのギャップの大きさを直視するようになった事に加え、当直やレポート、プレゼン業務で睡眠不足や疲労が重なり、再びうつ症状が増悪したためであった。

医師3年目に専攻科を決め転勤後、責任が増すにつれ日々の診療での医学的知識、検査など手技の習得の未熟さを自覚し、それと同時に他科の医師とのコミュニケーショントラブルからくる落ち込み、資格試験のためのレポート作成や学会発表、勉強会の資料作成など業務が増加した。

睡眠時間を削って業務にあたり、かつてない疲労感やイライラ、不眠、抑うつが生じた。このまま勤務を続ける事は困難と判断し、医師3年目の冬に休職した。1ヶ月休んでも良くなる見込みはなく、間も無く自主退職した。



3.休職に至ってからの経緯

医師4年目(休職後1年目)は週2日勤務をしていたが半年後に勤務を増やすと再度うつ症状が出現。通院している心療内科に相談し様々な方法を模索しても症状はあまり変わらず、焦る気持ちばかりが募った。

 

そんな中、ネット上に復職のためのメンタルコーチの存在を発見した。 医師5年目(休職後2年目)の春から電話でカウンセリングを始めた。

以後自分の体調心理状態をモニターしながら仕事量を調節し、1年以上かけて自分の体調心理面に気づけるようになった。

 

ちょうどその頃、当時の彼女と結婚した。うつ病の症状がまだ残存していたため、環境を変える事はかなり迷う決断であった。 神経症気質である母は私たちの結婚を認めなかったため、距離を置くようになった。また、その後間も無く家庭の事情により父とも関係が悪化し、連絡を断つこととなった。

神経症気質で被害妄想を常に私にぶつけ、私の将来の進路に対してプレッシャーをかけ続けた母と距離を置くようになり、また父とも関係が切れたことで、幼少期から言いたいことが言えなかった両親との関係は変化し、少し楽に生きられるようになった。 

 

医師6年目(休職後3年目)の春過ぎからは体調心理面が落ち着き、心療内科から漢方医への通院に変え、妻と相談しながら1年に週1日のペースで少しずつ仕事を増やしている。

 

 

 4.今後の目標と思い

私は今もなお、仕事でわからない事があると自己肯定感の低さゆえに「ダメなやつだ、勉強しなければいけない」という「すべき思考」に支配される。

しかし、これは良くなりたい気持ちの裏返しでもあり、自分のできる範囲で努力を重ねるのは職業人として必要な姿勢だと思っている。 個人的にはいずれは常勤に復帰し専門医を取りたい思いと、いつかは学会発表、論文作成をしたい思いがある。

 

そのため早く常勤として復帰をしたい焦る気持ちは休職当初と変わってはいない。

また私が非常勤勤務している大学病院の同期と比較しては引け目や劣等感を感じ、それが焦る気持ちを増長させる日々は続く。しかし復帰を焦ってうつ病を再発した経緯もあり、常勤に復帰すると仕事量をコントロールできない場面が多いことを加味し、元のように復帰するのは慎重を期した上で開始する事が望ましいとの考えから、現在は非常勤勤務を続けている。

 

人生は思うようにはならない。しかし、

・私たちはいずれ死に向かっており、残された時間は有限である。(池田正行氏)

・生きる意味はあるのかと「人生を問う」ことではなくて、人生のさまざまな状況に直面しながら、 その都度、「人生から問われていること」に全力で応えていくことだ(V.Eフランクル)

といった言葉を胸に、たとえ絶望失望の最中であっても残された時間を意識し日々自分のできる事、コントロールできることに集中したいと思っている。



5.Take home message 

「こうでなければならない」「これをしなければならない」等の「すべき思考」を無自覚のうちにしている人、とりわけ若い医学生や医師はそうした理想と現実のギャップに苦しみやすい。

うつ病に至ると一時的な休職だけでは解決できない事が多く、そうなれば社会的なキャリアだけでなく経済的にも大きな損失を生む。自分の力だけではマイナス思考や取り憑かれた否定的な感情を取り去ることはできない。

経過としてはいい時と悪い時の波があり、負担を減らしつつ波が落ち着くのをゆっくりと数年をかけて待つしかない。

また精神科医は疾患の治療については知識はあるが、職場復帰のプロではない。私のように復帰を焦ってうつ病を再発すれば治療期間が延びる。そうなるとますます見通しが立たなくなり、焦りからうつ病が増悪し、悪循環が断ち切れなくなる。精神科医の力を借りてもそうした悪循環が断ち切れない場合は復職支援のメンタルコーチに早めに相談する方が良いと思われる。

 

「すべき思考」はこうなりたい、良くなりたいという前向きな力の副産物である。 また無自覚のうちに入り込んだ考え方の癖を変えるのは容易ではない。 重症化を招く前に、まずは自分の心の中の「すべき思考」を認識し、適切な心 の距離を取りたい。そうした上で自己の体調をしっかりと見つめ心の免疫力を高めるのである。 こうすることで「すべき思考」と上手く付き合っていけると思われる。